Office Fleq 本文へジャンプ



 

   毎週5名様 計20名様に 当e-Book無料プレゼント!  




序章 ~ 悲劇の始まり


ハゲとは恐ろしいものである。

60代、70代の男性ならば「もう歳だからしかたないか」とあっさり諦めきれるだろうが、
30代、40代、ましてや青春真っ盛りの20代ではそうはいかない。

私が初めて自分の髪が薄くなってきたことに気づいたのは24歳の夏だった。

当時ハワイへ友人と海外旅行に出かけ、思いっきり日焼けをして帰ってきた数日後、
会社の先輩から「おまえ、最近薄くなってきたんじゃねーの?」と指摘されたのが始まりだった。

それまで、若ハゲとは無縁の生活を送ってきた自分だったが
あわてて洗面所へ行って鏡を覗いてみると、確かに薄くなっているような気がする。

もちろん光の当たり具合にもよるのだろうが、その瞬間から背筋に冷たいものが走り言葉では言い表せない漠然とした不安に心を捕われた。

「とうとうきたか...。」

この日のことは忘れられない。そしてこの日から「ハゲる」という恐怖を一日たりとも忘れることができなくなってしまった。


当時の自分は長髪で前分けをしており、額を出しているヘアースタイルであった。

ただ、これは遺伝なのだろうが髪の毛は癖っ毛で、ちょっと天パーが入っており、脂性でいつも髪はべたついているような感じだった。ので、いつも髪をセットするにも満足のいく髪型にならないことに不満を感じていた。

今思うと、当時は一人暮らしで食生活も不規則、仕事も忙しくて夜はシャワーも浴びないまま寝ることもしばしば。不摂生の極まりだった。ちょっと気を抜くとスーツの肩にはフケがかかっていたこともあり、同僚に指摘された時はすごく恥ずかしかったのを覚えている。


実際、私の家系はハゲの家系である。

父はもちろん、父方の祖父や母方の祖父も若くしてハゲ・薄毛であった。
また親戚にもハゲは多い。

そんなことはこれまでの人生の中で気にしたことはなかったが、自分がそういう立場になり、改めてその運命を強く感じるようになった。


しかしまだその頃は、薄くなってきた兆候が現れてきたにしろ、世間一般でいうところのハゲではなく、言われてみれば、あぁちょっと薄いかなー、くらいのものであったのだが、何かにつけハゲ・薄毛ということに過剰に反応するようになっていった。

自分の薄毛が気になりはじめると、他人の視線を異常に気にしすぎたり、引け目を感じたり、さらには自分の容貌に自信を失い、人前で話したり、異性と接することを避けたりするようになり、その年の暮れには自分の性格も消極的・ネガティブに変わっていった。















第1章 ~ 友人との再会


髪が薄くなってからは、毎日鏡を見るたび泣きそうな気分になっていったが、自分ではどうすることもできなかった。当時「育毛」という言葉すらも知らなかった自分は「まだ大丈夫、大丈夫」と心の中で自分を慰めるしかなかったのある。

自分で言うのもなんであるが、高校や大学の頃は結構モテており容姿には少なからず自信があった。
今でいうイケメンの部類に入っていたんじゃないかと思っている。それがハゲてしまい醜い容姿になって人から笑いものにされると思っただけで身が切られる思いだった。

その一方で、どうしたらハゲから逃れられるかという思いから、テレビでよく宣伝しているア○ランスやアー○ネイ○ャーのCMをみて「どんなことをしてくれるのだろう?」「一度話だけでも聞いてみようかな」と興味を持つようになった。ただ、なかなか電話をしてみる勇気もなく毎日が過ぎていった。そういうとこに行くのは自分にとってかなり敷居が高かったのである。精神的に病んでいる人が、精神病院にいくことに抵抗があるようなものだろうか。


そんなある日、大学時代の友人Tから電話があり久々に会おうということになった。

Tは同じゼミの仲間で広告代理店に就職した。就職してからはお互い仕事で忙しくなり、中々会う機会もなく疎遠になっていたところだった。Tに会うのは約2年ぶりである。

実は、Tは学生の頃から既に髪の毛が薄くなっており、その頃から「コイツは将来ハゲるんだろうな」と心なしか思っていたものだった。Tはスポーツ刈りのような短髪にしており、さらにデップで固めていたせいもあって、ただでさえ薄い頭の地肌がむき出しになり、ちょっと痛々しい感じがしていた。

でもTはすごくいい奴で、なんだか自分とはウマが合いよく一緒につるんでいた。そんなこともあって、今回久々に会って、最近頭が薄くなってきた自分の髪について悩みを打ち明け、お互いに慰めあおうと気持ちもあった。



約束の土曜の夕方、私は待ち合わせのドトールでタバコをふかしながらTがくるのを待っていた。

(やつのハゲはどれだけ進んでいるだろーな。俺と同じくらいかなぁ。)

なんて漠然と考えながら、久々の再開にワクワクしていた。

その時、Tが現れた。

衝撃が走った。全身が凍りついてしまった。

正確にいうと、最初は気がつかなかったのだがTから声をかけられて、初めてTだと気づいた。

「よう。久しぶり。」

そこにいたのは私が知っているTとは似ても似つかない男だった。

髪の毛がフサフサしており、サラサラヘアーが耳を覆っていた。ちょっと茶髪も入っているようだ。

(こいつ、とうとうかぶっちまったか..。)

私はTの髪の毛に釘付けになってしまったが、Tの視線に気づき顔をこわばらせながら相槌を返した。

「おお、元気だったか。久々だなー。」

Tは何事もなかったのように自然に振舞い、笑っていた。



それから2人で近くの居酒屋に移動して、再開を祝った。髪のことにはお互い一切触れずに。

Tは卒業してからのこと、今どんな仕事をしているかなど、この2年間にあったことを延々としゃべりはじめた。学生の頃はどっちかっていうと、あまりしゃべらない寡黙な男だったのだが、この2年間で性格も明るくなったようだ。もはや私の知っているTではなかった。

Tは休むことなくしゃべり続け、私はそれにただ相槌を打っていた。
もはや私はTのしゃべっている話は聞いていなかった。

(はやく、そのヅラのことを言えよ!)

学生の頃は何でも話せる仲であったが、2年ぶりに再開した親友があきらかにヅラをかぶっている状況に、そのことを聞いていいのかどうか躊躇していた。そしてそのことに興味深々だった。できれば自分からカミングアウトして欲しい。

聞きたいことはいっぱいあった。

(なんでヅラをかぶったの?)
(どこのメーカー?)
(いくらしたの?)
(周りの反応は?)


しかしTはお構いなしに世間話を続けている。だんだんムカついてきた。


そして飲み始めてから2時間ほどたった頃、結構酔っ払った私は、酔いにまかせて切り出した。

「あのさー、その髪...」

するとTは

「ああ、これ?」

と言って、ちょっと誇らしげに話し始めた。

「実はさ、1年くらい前に知り合いの人から育毛剤とかシャンプーとか勧められてさ。育毛っていうの?それを始めたんだよね。俺、それまであんましヘアケアっていうか、そういうの無頓着だったし。言われるがまま試してみたら段々復活してしてきてさ、それで伸ばしはじめたんだ。」

えええぇーー! ヅラじゃないのーー!

「? ん、もしかして、おまえ俺のことズラかぶってると思ってた?」

「い、いや...」

Tはおもむろに自分の髪をまくりあげ、額をみせながら生え際をむき出しにしてくれた。

「な、ちゃんと自毛だろ? ま、昔の俺を知っている奴はみんな同じリアクションしてたから、なんとなくわかるけど。」

私はしばらく呆然としていた。

「そういえば、お前もこの2年でだいぶ薄くなってきたよな。俺が教えてもらった育毛法に興味ある?ま、俺も言われたんだけど、みんながみんな効果あるってわけでもないらしいけど、気にしてるんだったらやってみる?」

私の酔いは一気に醒めてしまった。
そして目の前のTが自分の苦しみをすべて取り払ってくれる教祖様のように思えて、心がドキドキするのを抑えられなかった。そしてTが実践しているという育毛法を一言たりとも聞き漏らさないように集中した。

ハゲはもう治らないと心のどこかで諦めていたのに、ハゲは治るという生き証人が目の前にいる。

それから1時間ほどTのレクチャーは続いた。

Tの話をまとめると以下のような内容だった。

●人間には自然治癒力のようなものがあり、まず基本となる健康を手にいれること。
●Tは特別な育毛剤やシャンプーを使っているわけではなく、自分にあった製品を使うことが大事とのこと。もちろん、一般に売られている製品で粗悪なものはたくさんあるので注意は必要。
●正しいシャンプーの仕方。そして育毛剤のつけ方。
●食生活はかなり大事。特に一人暮らしで外食ばっかりは最悪。油ものもだめ。
●たばこもだめ。
●睡眠も重要。徹夜なんてもっての他。
●日焼け禁止。
●サプリメントなどの栄養補助食品を摂取する。
●適度な運動。
●毎日の頭皮マッサージ

などなど..


正直、期待外れの内容だった。
なんか当たり前のことばっかりで、ほんとにこれで髪が生えるの?って感じだった。
こんなことで髪が生えるなら、世の中のハゲはほとんどいなくなるんじゃないのかな..

もっと画期的な、今までにない育毛技術や育毛剤を使ってるんじゃなかったの?

そう言うと、Tは諭すような目でやさしくこう答えた。

「何やるにしたって、基本は大事なんだぜ。ここで言ってる育毛の基本っていうのは、土台となる自分の体が健康っていうこと。これがしっかりしてないと、人間の持っている治癒力っていうのは効果を発揮しないし、逆に今、不健康だから、その結果が頭に現れてきてるんじゃないの?」

ん~、わかったようなわからないような。そう言えば、会社入ってからの自分の生活って不摂生極まりなかったもんなー。

「それに、当たり前っていうけど、この規則正しい生活を続けることがどれだけ大変かわかってる?早寝早起きして、毎朝ジョギングして、会社はなるべく定時に帰るようにして、栄養のバランスを考えた食事を自炊して、その他もろもろ、、普通はなかなかできないよ。」

確かに。自分の今の状況じゃ、ちょっと難しいかも..。

「でもホンキで髪を回復させたいんだったら、頑張れると思うよ。ホンキで思ってんならね。俺はこの生活を続けて、最初の3ヶ月で回復の兆候がみえた。だからおまえもとりあえず、3ヶ月だけでも頑張ってみれば?あ、あと、この育毛法は絶対髪が生えるって信じてやること。心からね。疑ってやっても効果はないから。大丈夫だって。髪が生えてくればいやでも信じられるから。」

疑っちゃいないけど...。

それから、私はTの使っている育毛剤とシャンプーの製品名を聞きだし、Tに礼を言ってその日は別れた。Tはしきりに、育毛剤やシャンプーはただのきっかけにすぎない、要は自分に合ってる商品を使うことが大事だということを最後まで言っていた。



それから私の育毛の戦いが始まった。


















第2章 ~ 悪夢のカウンセリング


挫折だった。

Tから授かった育毛法は4ヶ月を過ぎたところで挫折してしまった。
Tからの情報をもとに綿密なスケジュールを組み、毎日の生活を管理し、食生活を改善して自分なりに努力したつもりだったが、それとは裏腹に髪の毛は一向に回復の兆しをみせなかった。
むしろ前よりも状態は悪くなっていった。
出口の無いトンネルを進んでいるようで、最後には気力も続かなくなり結局「育毛」という努力は止めてしまった。

何が悪かったのだろう。心のどこかで信じきれていなかったのだろうか。

今、振り返ってみると「育毛」を自分自身が楽しめていなかったのだと思う。できるなら趣味のように「育毛」を楽しめる心。そういった余裕がなかったのが敗因ではなかったかと。ちょっとした髪の状態に一喜一憂してそれがストレスにつながっていったのだろう。

Tの教えは決して間違ってはいなかったと思う。若さゆえに結果を急ぎ過ぎたり、やっていることへの自信の無さ、不信感といったものが結局は挫折を呼び込んでしまった。

一方、心の中では「なんでTばっかり...。」と妬む気持ちもあり、言ってみれば一緒に競馬にいって、奴だけが万馬券を当て、自分はオケラ。そんな運みたいなもので左右されてるんじゃないかと、絶望感でいっぱいだった。


そうこうしているうちに、自分の中ではこの現実を回避するために別のものを求めるようになった。


いくら自己流でやっても限界がある。ここはプロのカウンセリングを受けてみよう。プロならほんとに自分にあった育毛を教えてくれるにちがいない。

藁をもつかむ気持ちだった。


そして色んな情報を集めるようになった。髪に関するサロンやカウンセリングの資料請求。電話での問い合わせなど、有名なところは全部あたった。

しかし、どれも似たようなものであまりピンとくるものなく、とりあえず業界大手のア○ランスに話を聞くことにした。


ア○ランス訪問当日。

そこはあまり目立たないビルに看板を掲げていた。3階のサロンに通された。
他の客とは顔を鉢合わせないような作りになっており、個室でアンケートを書きながら待たされた。

今日の目的としては、情報収集としてまず育毛に関してどんな施術をしてくれるのか、どのくらいの費用でどれだけの効果が期待できるのか、などを聞こうと思っていた。

もちろん今日この場ですぐ契約をするつもりはなかった。色々話を聞いた上で別途検討し、他のサロンとも比較しながら最終的にどうしようか決めようと思っていた。ましてや増毛やカツラなどはその時の自分にとっては論外だった。

しばらくして現れたのは白衣を着た毛髪診断士と名乗るDという男だった。

その男の第一声は、

「あー、」と言いながら何か自分で納得しているかのようにうなずき、

「もう、だいぶきてますねー」
とのたまった。

生理的にこいつはダメだと感じた。本能がこいつは敵だと言っている。

「それで、どうされますか?」

「えーっと、あの、電話では無料体験ができるって聞いてきたんですけど..」

「あーそうですね。それではヘアチェックしてみましょうか。」

といいながら、そんなことしてもあんま意味無いよという態度みえみえで、マイクロスコープのような機械を用意しはじめた。そして私が事前に書いたアンケートをみながらつぶやいた。

「大橋さん、自分の髪の異常に気づいてから2年も経過してるんですかー。何でもっと早く来てくれなかったんですかねー。もっと早く対処してれば、こんなにひどくならないうちに改善できたんですけどねー」

えっ、俺ってそんなにひどいの?確かに薄くはなってきてるけど...。

そしてペンカメラみたいなものを頭に押し付け、それをモニターでみせてくれた。

「ほら、毛根がだいぶ細くなっているでしょー。」

「はぁ」

「ほらここも。通常はひとつの毛穴から4~5本毛が生えているんですけど、大橋さんの場合は1本しか残ってないですねー。」

「はぁ」

「あと、頭皮の状態がかなり悪い。こうしてカメラで見ると一目瞭然でしょう。」

「はぁ」

モニターに今まで見たことの無い自分の頭の拡大像を見せつけれ、言われるがままに、相槌を打つしかなかった。それがいいのか悪いのかも全然わからなかったのだが。毛髪診断士が言うのだからきっとそうなのだろう。

もう泣きたい気分だった。この毛髪診断士に不安を煽るようなことをズバズバ言われ、自分の心はもう既に折れていた。恐怖が増殖していった。自分はもう人間のクズのような気持ちになっていった。
目の前の毛髪診断士はそれから、髪も毛の生えるメカニズムやサイクルなど延々と説明をしながら、当サロンの技術や商品がいかに優れているかを語っていった。

細かい説明はよく覚えていない。というかショックで頭に入ってこなかった。

「あのー、それで育毛をするには、どのくらいかかるんですか?」

半分、契約するのも仕方ない、今始めないともうどうしようもないな、という気持ちになりかけて思い切って聞いてみた。

「ああ、育毛?そうですねー。大橋さんの場合は育毛も必要ですが、平行して増毛も必要ですね。」

えっ?増毛?ちょ、ちょっとまって。展開のスピードについていけない。

「育毛も大事ですが、正直育毛だけだと現状維持が精一杯ですね。それよりも今後のことを考えるなら早めに始めたほうがいいんですよ。」

といいながら、増毛用の人工毛のサンプルをみせ、何種類もある中からその人の髪質にあったものを使用し、どの様に施術するか、安全性、絶対に他人からはバレないなど、熱く語りはじめた。

育毛ならまだしも、増毛となると自分の中ではちょっと抵抗があった。カツラほどではないが、いきなり増毛に対しての心の準備ができていない。

一通り増毛について話した後、その診断士は費用にについて話し始めた。

なんか細かい複雑な説明で、色々なコースがあり、その仕組みをはっきりと理解できなかったが、
おおよそ、2年の期間で100万単位の費用が掛かるような感じだった。しかも前払い。ローン可。


金額の大きさもあるが、増毛という新しい選択肢にとまどいを覚えながら、心の中でもう一度良く考えてみようと気持ちが出てきた。ちょっと今、自分が持っている情報だけでは契約するのはリスクがある。増毛をするならそれなりの勉強をもっとしてみないと..。

そしてそのことを診断士に伝えた。

「今日は色々ありがとうございました。持ち帰って検討させていただきたと思います。」

その時の毛髪診断士の顔は今でも覚えている。

(えっ?何で契約しないの?あり得ない!)って顔で目を見開いていた。

そこから毛髪診断士との戦いが始まった。

「大橋さん、あなたは間違っている。今、ここで決断しないと、また一日一日進行が進むだけだ」
「私はあなたのような人を何百人も見てきたから良くわかっている。1年後にはあなたの髪は大変なことになっている。断言できる。」
「そんな状態になってから、また助けてと言ってきてもどうすることもできない」
「今がぎりぎりの状態です。今始めないと次はカツラをかぶらなければいけなくなる。それでもいいですか」
「何か今すぐ契約できない事情でもあるのですか」
「増毛は今、あたりまえで若者の5人に1人は経験している」
「髪より大切なものがあるのですか?」

気がつくと他のスタッフと思われる白衣をきた人たちに囲まれ、さらに不安を煽ったり、脅したり、なだめたりして、絶対ここで契約しなければ帰さない、という軟禁状態にされてしまった。

まさに拷問だった。

ハゲは罪であるかのようにあまりにも人非人的な扱いをされ、その場から開放されたいという一心で、契約しちゃおうか、と心が何度もぐらついた。冤罪で捕まった被告が、警察の暴力に耐えかねてやってもいない罪を認める心境でしょうか?


その2時間後、契約をせずに何とか生還することができた。

もうここに2度と足を踏み入れることはないだろう。心は空虚だった。



その後、3社のカウンセリングを受けたが、多かれ少なかれやっている内容は同じようなものだった。その中で色々検討した結果、アー○ネイ○ャーの育毛コースに申し込んだ。半年でだいたい50万くらいだったと思う。

それは育毛のみを専門に謳っているコースで、週に1~2回、サロンの予約をして1時間くらいの施術を受ける内容だった。頭皮の脂をとったり、赤外線みたいなものを当てたり、電気マッサージを受けたりする。
そして日常はここで売っているシャンプーや育毛剤などの製品でヘアケアを行う。

しかし数回カウンセリングを受けたあと、カウンセラーの人が鏡越しに、薄毛の進行が進んできたことを理由に増毛コースへの切り替えをしきりに勧めるようになってきた。
こっちは純粋に育毛に励みたいのに、行く度に増毛を勧められるようになってからは、ウザくなってきて段々と足が遠のいていった。コースの半分も消化しないうちのリタイアだった。



暫く後わかったことであるが、増毛というのは当時各社の主力製品で、1本の毛に数本(3~5本)の人工毛を取り付け、見た目にはボリュームを大きくすることができるが、取り付ける毛にかなりの負担がかかり、結局はその地毛も抜けてしまう。そうして進行が進んだ時にカツラをかぶせるのが戦略なのだそうだ。
育毛・増毛と手軽な感じで顧客を囲い込み、その顧客の恐怖感に言葉巧みに付け込みながら営業をする。

当時の毛髪診断士(営業マン)もノルマが厳しく、強引な営業をしていたのだと、今になっては思う。
















第3章 ~ ヘアーサロンでの散財


もう心はボロボロだった。

髪が無くなっていくというだけで、人間としての尊厳は木っ端微塵に打ち砕かれていった。

年々、私の髪は徐々に薄くなっていった。それも自分ではその変化はわからないほど徐々に。
毎日、会社で顔を合わせている同僚もそれは気づかなかっただろう。
しかし、たまに数ヶ月振りに会う地方の同僚や友人と会うたびに

「薄くなったね」

と言われることが挨拶代わりになっていった。
その度に、確実にハゲの進行が進んでいることを認識させられた。
そしてその度に私の心は傷ついていった。

街を歩けば、ショウウィンドウに映る醜い自分がいる。
ガラスに映る自分の姿は、光のあたり具合で頭の部分が異常に光っていた。

何度、悪夢に目を覚ましただろう。

夢の中の自分の髪が、まとめて抜け落ちつるっパゲになってしまう。
そんな時は汗びっしょりで飛び起きる。

またある時は自分の髪がフサフサに変わっており、嬉しさのあまり目が覚めると、
鏡の中のいつもと変わらない自分に落胆した。



障害者に対して障害の話をしないという暗黙のルールがあるように、
ハゲている人間に対して、直接ハゲの話題を振らないという風潮がある。

ちょっと薄くなってきた人間に対して、その話はジョークになるが、
ホントにハゲている人間に対してはシャレにならない。その場の空気が凍りつくのである。

私の周りでは、段々とハゲの話題が出ることが少なくなっていった。
正確には周りが気遣ってハゲの話をしなくなっていった。それは誰の目から見ても本格的にヤバくなってきたことを意味する。

それでも、仲のいい同僚や先輩は親しみの念を込めて私のことを「デコ」と呼ぶようになった。
それは「ハゲいるけど、気にするな」というエールの意味を込めての愛称だった。
ハゲいることに気を遣われ、よそよそしい態度をとられるよか、よっぽどいい。
しかし「デコ」と呼ばれる度に、やっぱり私の心は傷ついていった。

もうピエロに徹するしかないのか。


気がつくと私は30歳を超えていた。そしてその間も決して気の休まる日は一日もなかった。





ある日、また私は育毛に目覚めた。

ハゲて行くことはある程度、諦めかけていたのだが、やはり少しでもハゲの進行を遅らせたい。
回復することはできなくとも、現状維持だったら何とかなるのではないか。
もちろん、増毛やカツラをかぶることは論外である。そんなことは考えてないが、今のままをできるだけ長く持続したい。

今の私の外見は年齢より5歳くらい老けて見えるが、このまま現状維持をして10年持たせれば、ハゲているにせよ、実年齢が外見に追いつくのではないか、という淡い期待があった。


そんな時、ある雑誌の広告に載っていた、バイ○テックというヘアーサロンが目に付いた。
ここは育毛専門を謳っていたので、以前痛い目にあった、増毛やカツラの売り込みをされることはないだろう。純粋に育毛・発毛に専念できるのではないかと思った。日本初の育毛の特許もあるらしい。

私は興味をもち、何度かカウンセラー(営業)の話を聞いた。そのカウンセラーは女性であったが、中々感じもよく、実際に発毛した人も大勢いるとのこと。大丈夫、大橋さんの髪も絶対生えますよ、と熱心な勧誘に心を引かれ、3度目の相談で契約をした。

ここもコースは色々あって、詳細はよく覚えていないが、とりあえず1年のコースで100万くらいだった。その場でローン審査を受け契約。やっぱ、こういうとこは高いなーと思いつつ、でもこれでホントに髪が回復するなら高くはないのかなと自分に言い聞かせた。

システムとしては週に1回サロンに来て、1時間くらいの施術を受ける。みんな平日は忙しいので、やはり土日がかなり混んでいるようだ。私も毎週土曜日の午前中に通うことにした。(家からは結構遠いところにサロンがあったので、土曜の朝に早起きして通うのは結構しんどかった。)

あと、育毛ヘアケア製品。普通では考えられないような値段のシャンプーとコンディショナー、それからオイルと育毛剤を半年分渡されて、平日は朝晩とそれを使う。あと極めつけは、なんかヘルメットにホースがついたような機械があり、毎晩それを使うのだそうだ。そのヘルメットからは赤外線のようなものが出るらしく、使い方は、まず頭にオイルを塗ってヘルメットをかぶり、15分くらいかけて頭皮についている汚れを浮かすとのこと。それからシャンプーをして育毛剤をつけるという流れだ。

それから数ヶ月、私は頑張ってバイオ○ックの言うとおり育毛を続けた。毎週施術をしてくれるヘアーカウンセラーは22~23歳くらいのカワイイお姉ちゃんで、マッサージとかもあり、それなりに気持ちよかった。私の頭はかなりの脂性だったのだが、赤外線や脂をとる溶液みたいなもので頭皮の毛穴の汚れをきれいにしてくれた(自分ではほんとにきれいになっているかどうかはわからなかったが)。

カウンセラーがいうことには、市販で売っているシャンプーは粗悪品しか無いので、今後一切バイ○テック社のシャンプーやヘアケア製品以外は使わないこと。逆に、使えば使う程、発毛が早くなるというようなことを言われていた。私は何の疑問もなく、出張に行くときにもそのシャンプーを携帯して育毛に励んだ。(さすがに出張先にヘルメットは持っていけなかったが...。)

今、振り返って思うと涙ぐましい努力である。あの頃の自分を思い出すと、毎晩律儀にヘルメットをかぶって、ほんとに効果があるかどうかわからない赤外線を当て続け、それでも髪が生えると信じ、いそいそと育毛剤をつける。ほんとに滑稽である。


このヘアーサロンの効果に疑問を持ち始めたのは1年程経った頃である。
自分では中々、効果が現れずちょっとあせっていた頃だった。下手すると前よりも進んでるんじゃないかと。
ここでは髪の定期診断のようなものがあり、確か半年毎に発毛状態をチェックする。最初の半年ではあまり効果が現れなかったが、いい状態ですよ、このまま続ければ大丈夫ですよ、と診断され、まあこんなもんかと思っていたのだったが、ちょうど1年経って診断された時、

「大橋さん、よかったですねー。発毛の傾向がみられますよー」

と言われた。

えっ、発毛って。

「ほら、よくみると生え際のところに産毛が生えてきてます。これがどんどん増えてきて丈夫な髪に変わっていくんですよ。この調子でがんばりましょう。」

えっ、それほんとなの?産毛なんて前からあったような気がするし、最初に撮った写真と見比べたら明らかに進んでるじゃん。なんか適当なこと言ってない?でもこの前、契約更新したばっかだしなー。とりあえず信じてもう少し頑張ってみるか。


半信半疑状態だった。


そういえば、髪にいいからって、何万もするサプリメントを何度も買わされたし、結局はいいカモなのかな...。大多数の人が発毛してるって、こんな産毛じゃ発毛してるうちに入らないじゃん。やっぱ遺伝には勝てないのかなー。

それか数ヶ月後。髪の状態も産毛からあまり変化がなく、もう諦めかけてた時。
ヘアーカウンセラーの営業が決め手だった。

「大橋さん、毎日の頭皮マッサージはどうされてます?今度新しい、いい機械が出来たので是非お使いになってみて欲しいですけど..。」

そういって勧められた機械は数十万もする高価なものだった。最初はやんわりと遠慮していたが、立場の弱い自分は、その効果や必要性を延々と鏡越しに語られ、最後には抵抗する気力も失い泣く泣くクレジットカードを差し出してしまった。


だめだ、やっぱり自分はカモだった。やっとわかった。

ハゲという悩みにつけこんで、やつらは色々売りつけてくる。髪が生えるかどうかなんて、やつらはどうでもいいと思っている。


それから数週間後、私はバイ○テックに通うのをやめてしまった。

なぜか心はすっきりしていた。

1年と4ヶ月で使ったお金は200万を超えていた。















第4章 ~ 育毛での大逆転


吹っ切れていた。

諦め?いいや。それとは違う心境だった。

この数年間、ハゲの原因、育毛のメカニズム、様々なヘアケア製品など髪に関する色々な情報を集め、そしてその知識もかなりのものとなっていた。

自分にはひとつの確信があった。確信と言うよりも現実だろうか。

ハゲには様々な原因がある。そしてその原因はひとつであることは少なく、色々な原因が絡みあって、ハゲという現象が起こっている。各サイトでは色んな情報が溢れかえっている。若年性脱毛だとか脂漏性脱毛だとか男性ホルモン(テストステロン)が原因であるとか。

しかし、現実としてハゲてしまう本当の原因は科学的にまだ解明されておらず、そしてハゲが確実に治る育毛剤や薬品、そして施術法は存在してはいない。


私はこれまでの経験により、脱毛の要素としては以下の5つであると思っている。

 1.遺伝的要素
 2.食生活的要素
 3.精神状態(ストレス)による要素
 4.健康状態による要素
 5.間違った手入れによる要素



そして、これらの要素となる原因が複雑に絡み合ってハゲになっているのである。

この中で、厄介なのは遺伝的要素である。これは今のところどうすることも出来ない。脱毛そのものの遺伝子というものはまだ発見されていないということから、ハゲは遺伝に関係ないとのたまっているサイトや書籍があるが、我々は遺伝のハゲというのは経験的に相関関係にあることを知っている。そして遺伝には勝てないことも知っている。

ハゲが遺伝に関係ないというのは、人々に希望をもたせ、その商品や育毛法を売るためのセールストークに他ならない。人は希望があればその商品を買ってしまうのだ。かつての私のように。


ただ、前述したようにハゲの原因は1つであることが少ない。遺伝が原因でハゲている人も、食生活やストレスなどの2次的、3次的原因が加わることによってハゲを促進していることがある。


逆を返せば、遺伝的原因はどうすることもできないが、その他の原因を解消することによって、ハゲは一時的に回復することは可能なのである。

そしてそれは、決して育毛サロンに高価な費用を出さなくても、正しい育毛法さえ自分で行えば髪は生えてくる。


私は自分が遺伝的原因でハゲていることは承知していた。家系的なことを考えれば疑う余地はない。しかし原因はそれだけではないことも確信していた。これまでの食生活や生活の不摂生、一人暮らしという状況を考えると、これらの原因をターゲットとした育毛をすれば、回復する余地はあることを。


私は24歳の時に再開した友人Tのことを思い出していた。彼が言っていたのはこういうことだったのか。今になってやっとわかるような気がした。そして髪の毛が生えてくるという確信があった。




私は髪が生えてくることに執着はしなかった。

そして育毛自体が楽しかった。育毛が私の趣味になっていった。髪が生えてくるかどうかよりも、育毛スケジュールを組み、それをこなしていく、そして体が健康になっていく、心が健康になっていく、それが楽しかった。それはきっと、これまでハゲという呪縛にとらわれていた心が、長い間時間をかけてそれを受け入れ、少しずつ氷解していったかのようであった。


ハゲはもう怖くない。


そして私の髪は復活していった。誰の目にも明らかだった。


私は33歳になっていた。
















第5章 ~ カッコいいハゲへの道へ向かって


長い道のりだった。

ここまで辿り着くのに10年の月日が流れていた。

ここにはあの頃苦しんでいた自分の姿はない。
自信を失って、人目を避けて、消極的になっていた自分がうそのようだった。

ハゲを受け入れる。ありのままの自分をさらけだし、それを周囲に受け入れてもらう。

私の髪は今、一時的に回復状態にあるが、それでも一般的にはまだ薄毛の部類に入るだろう。
危機的状況を一時回復したにすぎない。近い将来、5年後か10年後かには立派なハゲの仲間入りをするだろう。

それでも全然怖くなかった。それで良かった。
欠点を隠さない「ポジティブ・ハゲ」として生きていこうと決めた時、私の人生は変わった。


心理学用語で「喪失」という言葉がある。

人は程度の差はあれ、常に何かを得ては失い、失っては得るというサイクルを繰り返している。
その「喪失」を対象化した場合、通常、近親者や友人・恋人との死別を指すことが多い。

しかし、その苦しみは必ずしも死別だけを意味するのではなく、失職、失恋、住み慣れた環境との別れなど、自分にとって意味のある他者や環境を失うことすべてが含まれる。

そして「ハゲ」による髪の毛の喪失は重要な喪失対象であり、そこから回復するには大きなエネルギーと長い時間を要する。

対象喪失の状態からの回復の過程は「悲哀の仕事」(モーニング)、「喪の仕事」などと呼ばれており、もともとはフロイトの概念である。


「悲哀の仕事」は容易ではない。対象喪失初期には、無関心を装ったり、攻撃的になったりするのみならず、感情を抑え込んだり、問題から逃避しようとするからである。そして、やがて失ったということを認めると同時に訪れる深い絶望。そして「悲哀の仕事」を成し遂げるためには5年とか10年の長い年月がかかる。

私はこれを為し遂げた。

そして為し遂げたこの経験をこれからの人生に活かして行きたいと思っている。


そしてこれを乗り越えた私だから、今、自信を持って言える。

カッコよさとハゲは関係ない。いや、ハゲだからこそ「男らしい」「カッコいい」のである。

あるアンケートでは女性は薄毛に対して「渋い」「優しい」「落ち着きがある」「男っぽい」「知性的」というプラスイメージを持っているとのこと。

特に、

●恋愛のシーンでは髪の量で好きになったり嫌いになったりしない
●ダメなのは髪ではなく、気にするあまり消極的になり、自身を無くし、卑屈になること。
●女性は男性をトータルで評価する。服装だとか、立ち居振る舞いだとか。
●髪が無いなら無いでOK。堂々としている方がカッコいい。
●あなたが思うほど、女性は気にしていない。

との意見が多かった。


今、私は「カッコいいハゲ」に生まれ変わった。

少なくとも自分では、そう思っている。

自分にぴったりのヘアースタイルを見つけたのだ。

高校、大学とモテていたあの頃の気持ちに戻ることができた。

きっと、あなたが今の私をみたら、マネしたいと思うだろう。

私は今、自信に満ち溢れている。

そして今、私は幸せである



- 終り -